寺の隣は200坪ほどの庭を持っ農家の屋敷である。
庭の周囲に植えられたカキとマキの木の幹には大人ひとりがやっと抱えられるほどの大株の
デンドロビウムが幹を巻くように着生し、その枝先にはセッコクやフウランが隙間のないほど
根を広げていた。
かつて写真で見たデンドロビウムの原産地、インドやミャンマー北部の山間地の樹幹に
絡まるように着生したランの風景が思い出された。
このデンドロビウムはノビル系という種類で我が国では栽培の歴史が古く、
終戦後には品種改良が盛んに行われるようになったそうだ。
寒さに強くマイナ ス2~3℃の低温でも枯れることがない丈夫さで早くから定着し、
日本が世界一の品種改良国になったという。
昭和38年の極東寒波以来度々寒波に遭遇したが、最近では異常気象に
よる暖冬傾向が恒常化して、藤枝が凍りつくことは少なくなった。
おそらくこのランは家主が10年か20年ほど前に幹に張り着けたものが大株に
育ったものにちがいない。
桜の咲く頃に咲き始めて4月中旬には満開となったが、豪華な花を眺めながら歩く
このスペシャルコースは実に贅沢で幸せな散歩道だった。
学生時代の友人A君は、1000坪以上もあろうかという広い敷地に大きな家を構えた
農家に婿入りした。
敷地の中の畑は野菜が栽培されていたが、隣家との境界には大きなカキやマキの木が
何本も植えられていた。
それらの木には、大人の肩ほどの位置から枝の先にいたるまでフウランの大小の株が
着生して隙間の無いほど根を張っているのを見て驚いた。
十数年前に大きな株を貰い受けたが、私の庭には着生させるような木が無かったので
ミズゴケで作った大きな球に張り着けた。
毎年6月下旬の夜になると、軒に吊るした満開の白い花から放たれる甘い香りが辺りを
満たし当時のことが思い出された。
歩行者を見つけるとすかさずコース変更をするが、その結果、予期せぬ幸運に
恵まれることもある。今朝は貸農園の一角に満開のハナショウブを見つけ
足を止めた。きれいに咲く花の中でも、欧州由来の帰化植物「キショウブ(Iris pseudacorus)」
との交配で生まれたキハナショウブの美しさはひと際目をひいた。
最近は、草丈が短いうえに坪枯れが多くて見るに堪えないショウブ園が目に
つくが、「連作を嫌うこの花は3年に一度は改植と株分けをし、さらには土壌消
毒が必須である。」と、かって農業改良普及員から教わったことを思い出した。
何年か前に、ブームのようにあちこちでハナショウブが植えられたが、その後の
管理を怠ったばっかりに今頃になって手の施しようがなくなったのだろう。
この団地で半世紀近くを過ごし、連作障害に晒されながらめでたく徘徊予備軍
の仲間入りを果たした私だが、手の施しようがあるうちにせっせと歩き続けて
体力維持に努めたいと思っている。