花の風景(散歩道の花)4

ツワブキ  長池泰弘(2020.11.15)

 立冬が過ぎるとさすがに朝の冷え込みが身に染みて、今朝はいつもの出で立ち に薄手のジャンバーを羽織った。つい先頃まで長い夏に苦労をさせられたので、 果たして、例年のような秋や冬が来るのだろうかと一抹の不安を覚える時があっ たが、今年ほど四季の在るありがたさを感じたことはなかった。
 暖房に切り替えたリモコンを傍において、静かに循環する暖かな風を寝床で 感じながら外が明るくなるのを待っていると、たまには寝過ごすことがあってこの時 ばかりは早朝散歩はあきらめてゆっくり寝ていることにした。歳のせいだろうかその 頻度も高くなって何とも情けなく思うこの頃だ。
 今朝はこの秋一番の冷え込みだったが、日中の雲一つない穏やかな小春 日和に誘われて“昼の散歩”に出かけた。知らず知らずのうちに朝の散歩コース とは反対の方向へ足は向いてしまった。花の少ないこの季節なので、普段通るこ とのない民家の脇道を歩けば、何かしらの花に出会うこともあるだろうという期待 があったからだ。しばらく歩いていると、生け垣の根元に顔を出して咲くツワブキの 花が見えてきた。艶のある大きな葉の間に数本の花茎が立ち上がり山吹色の花 はすでに満開だった。

 もともと、海岸の磯や海辺に近い岩場や雑木林の縁に生える植物だが、庭 の下草に使われはじめてからはどこにでも見られるようになった。
 同じキク科でフキに似ているこの草は故郷伊豆半島の海岸線の岩場に沿っ た草叢や雑木林の縁沿いに自生が多く、晩秋になると海岸に近い山肌一面 が山吹色に染まって素晴らしい景観だった。
 早春の頃、ラクダのようなモコモコした毛を被った指ほどもある太い茎(葉柄) を摘んでくると、母はそれを糠漬けにしたり、長い時間をかけて煮詰めてキャラ ブキを作ってくれた。コリコリした食感の糠漬けの味や、とろけるような食感と風味 のキャラブキは忘れることのできない“お袋の味”だった。ところが、残念なことに 田舎の次の世代の人達にはこれを食べる習慣がなくなったそうだ。
 黄色い花を咲かせる植物はキク科の植物に多いが、ヒマワリ、キンケイギク、 セイタカアワダチソウなどの外来キク科植物にも共通している。それ以外にも黄 色の花を咲かせる種類が多いことを不思議に思って調べているうちに、植物の 花色を研究する奇特な植物学者の存在を知った。黄色の花を咲かせる植物 は白に次いで二番目に多く全体の約30%を占めるというが、この色は花粉を 媒介する昆虫類が好む色であることから、植物もそのように進化していったので あろうと彼の論文は締め括られていた。
 そういえば、どの花を見ても花粉の色はほとんどが黄色である。



ランタナ  長池泰弘(2020.11.28)

 散歩道のあちこちによく見られる夏の花木にランタナという外来植物がある。 初夏から休むことなく咲き続けるこの花は、庭を占領してしまうほど生育旺盛な熱 帯花木だ。半年に及び途切れることなく咲き続けるので、庭の主にはことのほか 愛おしく思われているらしい。一番花が散るやいなや枝先には放射状に沢山の 緑の実を結び、やがて黒く熟した実を野鳥が群がって食いあさる。表面の果肉 部分は甘いそうだが種子にはランタニンという有毒物質が含まれているので歯を 持つ哺乳類は近づかない。種を消化できない鳥達には食べ放題なので所構 わず糞と一緒に種をまき散らす。隣近所や道端の僅かな草叢にも芽を出しては みるみる大きくなって、1年もすると一面に花を咲かせるので周囲の人達は大喜 びだ。ところが2~3年して大株に育ったランタナの花が一段落する秋になっ て、この植物の“したたかな正体”にようやく気づいた庭の主は唖然とする。しつこ いヤブ蚊を払いながら刺だらけの枝打ち作業に往生したかと思えば、ついには、あ ちこちに生えまくった株の引き抜き作業に悪戦苦闘する始末だ。
 中南米の熱帯が原産のランタナは江戸末期に日本に伝わり、 明治初期には沖縄や小笠原では原野一帯が占領されたという。 東南アジア各地では遥か昔に野生化が進み、やがて、世界各国 に急速に広まって『世界の侵略的外来植物ワースト100』と いう不名誉な称号をいただいたそうである。

 昭和25年、故郷南伊豆に「静岡県有用植物園」が開園した。国内外の有 益な植物を収集し、地元農業の振興や伊豆の観光資源として普及する目的 だったそうである。植物園に務める親戚の人が届けてくれる苗を父はあちこちに 植えては楽しんでいた。私が小学校2~3年(昭和30年代)の頃だった。
 植物園から届いた植物は、トケイソウ、エリスリナ、キダチチョウセンアサガ オ、ランタナなど耐寒性に優れた熱帯、亜熱帯系が多かった。温暖化の進ん だ今日とは異なり、南伊豆といえども霜の降りる冬は寒くて藁囲いしたものは冬を 越したが、外に置かれたままの植物の大半が1~2回の霜で枯れてしまった。
 よく晴れた穏やかな昼下がり当てもなく散歩に出かけた。寒くて寝過ごした今 朝の散歩を補うつもりではなかったが、近所のきれいに管理された庭を眺めなが ら公園の方へブラブラと歩いて行った。歩いた先の陽だまりに咲き始めたばかり の野水仙を見つけて一瞬ほんのりとした気分になったが、その脇に咲くランタ ナの花を見た途端に興醒めしてしまった。そして、こんな外来植物ごときに、季節 の移り変る景色まで奪われてはたまったものではないと強い憤りを覚えた。
 あちこちに生えては咲きまくるランタナは『世界の侵略的外来植物』に選ばれ るだけのことのある実にしたたかな植物だ。